パトロンとは

僕自身は行動力がないタイプで、アクティブで人見知りをしない女性には憧れる。
行きつけの歯医者の女医さんは、そんな僕のタイプだった。治療中にまるで風俗に通っているかと錯覚させる密着ぶりに加えて、彼女のきれいな指が僕の汚い口の中をかき回している感覚。冷静に考えると、歯医者ってかなりエロい。そのエロの中枢にいる女性である。
だが、僕は指示されるのは嫌いで不快になる性質だ。自分でも厄介なタイプな人間だと思っている。。
「左上が磨けていませんねえ。歯茎に押し当てるようにゆっくり動かして」
例えば歯ブラシ指導。確かに歯磨きができていなくて虫歯になったのだから、指導を受けるのは当然なのだが、上から目線でモノは言ってほしくない。あなたは僕にとって何様なんだ?と思ってしまう。まあ、何様かと言われると、歯医者の先生と患者以外の何物でもないのだけど。
見たところ、彼女はこの歯科医院の非常勤っぽい。最近では、複数の歯科医院を掛け持ちするいわゆるフリーランスな医師が増えている。フリーランスと言えばかっこいいが、要は医院に常勤医師を雇いきるだけの体力がないだけなのだろう。
僕が彼女のパトロンになってもいい。パトロンとはつまり個人スポンサーだ。僕がバックアップして「彼女歯科医院」を独立開業させる。
パトロン
彼女はもう僕には頭は上がらない。むしろ、尊敬されるくらいだ。そんな恩人を前に上からの物言いは出来まい。
毎朝、彼女に僕の口の中をブラッシングさせる。そして、毎晩、僕が彼女の下の口をブラッシングだ。
「はい、終わりました~お疲れ様です」
僕が妄想を膨らませ続けている内に、いつしか治療は終わっていた。彼女は僕にムチっとした尻を向けて診断書を書いている。
まあ、いろいろと考えたが、医師と言う職業を考えるに、どう見ても彼女の方が僕よりも年収が高いだろう。「彼女歯科医院」は夢のまた夢だ。パトロンとは僕の空想の中でしか存在しない言葉である。
「次は三か月後検診ですね。さっきの要領できちんと歯磨きしてくださいね」
つぶらな瞳でにこっと微笑みながら診断書を差し出した彼女に、僕は「ありがとうございます。またよろしくお願いします」と深々と頭を下げるのだった。
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